
数週間前、MITの研究論文、テーマは「ChatGPTのようなAIツールが、私たちの思考力や批判的思考にどんな影響を与えているのか」が議論を呼びました。
結果は驚きつつも、ある意味では予想できたものでした。
2023年の時点で、スタンフォード大学のJeff Hancock教授が「AIとのやりとりは、すでに私たちの言葉の感じ方や感情に影響を与えている」と指摘していました。
メールやメッセージアプリに出てくる「スマート返信」の例を思い浮かべると分かりやすいですね。自分で使わなくても、表示されることで思考に影響が出ているのです。
そして今、フロリダ州立大学の研究が新しい視点を加えました。
それは「AIがよく使う言葉、いわゆる“AIバズワード”が、人間の会話にもしっかり入り込んでいる」というものです。
研究チームは20語を対象に調べたのですが、私自身もそのうち2語ほどを日常的に使っていることに気づき、少し驚きました。
何が起きているのか?
研究チームは、ChatGPT登場前後で人々の語彙がどう変化したかを調査しました。
その結果、AIが多用する「intricate」や「delve」といった言葉が、人間の会話にも増えていることが判明しました。
対象となったのは約2200万語におよぶ自発的な会話。BBC Curious Cases、Lex Fridman、Big Technologyといった有名ポッドキャスト17本が分析対象でした。
そこから見えてきたのは、AIのバズワードがそのまま、あるいは同義語の形で人間の会話に現れているという事実です。
コンピュータ言語学のTom Juzek教授は「AIが多用する語が、短期間で顕著に増えている。相関があると考えるのは自然だ」と述べています。
普段は学術的な文脈で見かける単語が、カジュアルな会話で倍近い頻度になっているケースもありました。これは「seep-in effect」(染み込み効果)とも呼べそうです。
大きな視点で考えると
この研究は「AIのせいで言葉が変わった」と断定しているわけではありません。
あくまで「語彙の重なりが観察された」という段階です。
ただし論文では「AIバズワードの使用が続けば、言語進化の方向性に大きな変化をもたらす可能性がある」と警告しています。
問題は、言葉の置き換えだけではありません。もしAIの持つ偏り(バイアス)が、人間の会話や思考に無意識のうちに入り込んだらどうなるでしょうか。
すでにAIとの会話が原因で危険な行動や深刻な健康被害につながった事例も報告されています。
今回の研究が示す本質は、「AIが言葉を変えている」だけではなく、「言葉の研究の仕方そのものを変えている」という点です。