
AIツールが日常業務に浸透するなか、その効果を最大限引き出せない要因は技術だけではない可能性が指摘されています。
教育企業Multiverseの報告書は、企業がAIの潜在力を十分に発揮するかを左右する13の主要な人間のスキルを特定しました。
これらへの配慮がなければ、AIライターや大規模言語モデル(LLM)などへの投資は期待を下回る恐れがあります。
調査では、初心者から熟練者までのAI利用者を対象に、実務タスクをこなしながら思考過程を口述する「シンクアラウド法」を用いました。
その結果、スキルは「認知スキル」「責任あるAIスキル」「自己管理能力」「コミュニケーション能力」の4領域に分類されました。
必要とされる4つのスキル領域
認知スキルには、AI出力の評価や革新推進、応答予測に必要な分析的推論、創造性、システム思考が含まれます。
責任あるAIスキルには、出力のバイアスを見抜く倫理観や、地域・社会的背景への配慮といった文化的感受性が挙げられます。
自己管理能力には、適応力、好奇心、細部への注意、粘り強さがあり、AIとのやり取りの質を左右します。
コミュニケーション能力には、出力を受け手に合わせて調整する力、AIを思考のパートナーとして活用する共感的姿勢、成果向上のためのフィードバック交換が含まれます。
AI依存と人間の役割
MITなどの学術機関は、生成AI依存による「批判的思考の低下」を懸念しています。
これは「認知オフローディング」と呼ばれ、思考労力を機械に委ねることで分析的習慣が損なわれる現象です。
AIは高速で膨大な情報を処理できますが、人間特有の微妙な推論や倫理的判断は代替できません。
Multiverseは、企業が技術研修だけに注力すると、AIと効果的に協働するためのソフトスキルを見落とす危険があると警告します。
経営者はAI投資を技術ギャップの解消と考えがちですが、実際には人間と技術の両面の課題が存在します。
AIが人間の認知力を必ずしも弱めるとは限らないものの、記憶するよりも「情報にアクセスし、解釈し、検証する力」が重視される方向に認知の在り方が変化していると報告は結論づけています。