DJIの製品は、率直に言って完成度が高いです。
ドローンにしても、アクションカメラにしても、「この性能でこの価格は正直すごい」と感じる場面は少なくありません。
それでも筆者は、現時点でDJIの製品を積極的におすすめすることはしていません。
それは性能が低いからでも、使いにくいからという理由ではありません。
もっと構造的で、少し静かな危機感によるものです。
アメリカで居場所を失いつつあるという現実
まず前提として、DJIはアメリカ政府調達で禁止メーカーの1つとなっており、アメリカ政府との関係を失っています。
- 米国政府調達からは事実上排除されている
- 国防・安全保障の文脈で常に疑義の対象になっている
- 将来的にはFCCの動き次第で、民生製品にも制約が及ぶ可能性がある
これらの情報は公式な制度や政治の流れとして確認できる事実です。
この流れにより、DJI自身がアメリカを長期的な成長市場として見ていない可能性が高いという点が重要です。
企業としては合理的な判断ですが、ユーザー視点で見ると、少し立ち止まるべきサインでもあります。
米国防総省による「中国軍事企業」指定という事実
DJIについて語る際に、避けて通れないのがアメリカ国防総省(DoD)による公式な位置づけです。
米国防総省は、DJIを「中国軍事企業(Chinese Military Companies)」のリストに追加しています。
この指定の根拠として挙げられているのが、主に次の2点です。
まず一つ目は、中国の国家情報法(第7条)の存在です。
この法律では、中国企業は政府や軍の情報活動に協力する法的義務を負うとされています。
アメリカ側は、「たとえ現時点で意図的なデータ提供が確認されていなくても、将来的に協力を拒否できない構造そのものがリスク」だと判断しています。
二つ目は、DJIの技術が中国軍の近代化に寄与していると見なされている点です。
これはいわゆる「軍民融合」の考え方で、民生技術が軍事転用される可能性を問題視しています。
ドローンの測位技術、画像解析、制御技術などが、その対象とされています。
これら指定の結果として、米軍および多くの米国政府機関では、DJI製品の使用が厳しく制限、または事実上禁止されています。
重要なのは、以下の点です。
法制度・技術構造・地政学リスクを総合的に見た結果として、米政府が「信頼できない」と判断している。
アクションカメラは「安全な逃げ道」
ドローンは規制の影響を強く受ける分野です。
一方で、アクションカメラは事情が異なります。
- 電波規制が比較的緩い
- 軍事・安全保障との関係が薄い
- 政治的に問題視されにくい
DJIがこの分野に力を入れるのは、非常に自然な流れです。
そして、その展開先として日本市場が選ばれるのも、業界的にはよく見られる動きです。
日本市場は「テストベッド」にされやすい
日本市場は、中国メーカーにとって少し特殊な立ち位置にあります。
- 先進国でありながら政治リスクが低い
- 消費者の要求水準が非常に高い
- 失敗しても世界的な致命傷になりにくい
つまり、
日本で試し、厳しい評価を受け、改良してから世界へ展開する
という使い方がしやすい市場です。
DJI製品の価格設定がかなり攻めているのも、この文脈で見ると理解しやすくなります。
法的な意味でのダンピングと断定できないものの、異常に安い値段で市場投入しています。利益よりも市場の反応を優先している価格戦略であることは確かだと感じます。
問題は「今」ではなく「これから」
DJIの製品を使ったからといって、今すぐ何か危険なことが起きるわけではありません。
それでも筆者が引っかかるのは、次のような将来リスクです。
- 国や地域によって機能が制限されるリスク(突然アップデートが打ち切られる可能性)
- ある日、その製品自体が重要でなくなる可能性
- 動画や音声が敵国分析用のAI素材や、軍事情報として利用されている懸念
こうした事例は、過去に他の中国メーカーでも何度も見てきました。
テストが終わった市場は、静かに優先順位を下げられることがあります。
「使いやすい」だけでは、長く使う理由にならない
ガジェットは、購入した瞬間がゴールではありません。
- 数年単位で使い続けられるか
- ソフトウェア更新が継続されるか
- トラブル時にきちんと向き合ってもらえるか
こうした点まで考えると、今のDJIは「腰を据えて長く付き合えるメーカー」には見えないのが正直なところです。
少なくとも筆者は、メイン機材として他人に勧める判断はできませんし、メイン機材として使っている人は信用できません。
実際、ジャンル毎のトップYouTuber達はメイン機材としては使っていないのが現実です。
DJIをおすすめしない
改めて言いますが、DJIの製品は性能が高く、コストパフォーマンスにも優れています。
それでも、
- 地政学的な立場が不安定であること
- 市場戦略が実験的に見えること(日本のユーザーが途中経過として扱われている可能性)
- 情報が軍事利用されている可能性が高いこと
これらを踏まえると、「何も知らない人に「安心して長く使えますよ」と勧めることはできない」という結論になります。
購入するかどうかは、最終的には個人の判断です。
ただ、「安い」「使いやすい」という理由だけで選ぶ前に、一度立ち止まって考えてほしい。
そのための材料として、この記事を書いています。
参考情報
- U.S. Department of Defense
Section 1260H of the National Defense Authorization Act – Chinese Military Companies List
DJI is designated as a Chinese Military Company under U.S. law.
https://www.defense.gov/News/Releases/
- Federal Register (U.S. Government Publishing Office)
Chinese Military-Industrial Complex Companies (CMIC) List
Official publication of restricted Chinese companies, including DJI.
https://www.federalregister.gov/
- U.S. Department of Homeland Security (DHS)
DHS Intelligence Assessment on Chinese-manufactured UAS
Raises concerns about potential data access risks posed by Chinese-made drones.
https://www.dhs.gov/
- U.S. House of Representatives – Committee on Homeland Security
Hearings and Reports on National Security Risks of Chinese Drones
Congressional records discussing DJI and data security concerns.